Transformer

トランスフォーマー

Transformer を分かりやすく

Transformer(トランスフォーマー)は、2017 年に Google が発表した論文「Attention Is All You Need」で提案されたニューラルネットワークのアーキテクチャです。この技術は、AI の世界に革命をもたらしました。

例え話をしましょう。あなたが長い小説を読んでいるとします:

従来の方法(RNN/LSTM): 本を最初から最後まで順番に読む

  • 最初のページを読んで、次のページを読んで...と順番に処理
  • 前のページの内容を覚えておく必要がある
  • 最初のページの内容は、最後まで読む頃には忘れているかも
  • 並列処理ができない(1ページずつ順番に読むしかない)

Transformer: 本全体を一度に見渡す

  • すべてのページを同時に見て、重要な関係性を見つける
  • 「この登場人物は100ページ前に出てきたあの人物と関係がある」とすぐに分かる
  • 並列処理が可能(複数のページを同時に処理できる)

Transformer の革新的な点は、「Attention メカニズム」を使って、文章の任意の2つの単語の関係性を直接計算できることです。これにより、長い文章でも文脈を正確に理解できるようになりました。

Transformer の仕組み

Transformer は主に以下の要素で構成されます:

  1. Self-Attention: 文章内の単語同士の関係性を計算
  2. Multi-Head Attention: 複数の異なる観点から関係性を見る
  3. Position Encoding: 単語の位置情報を追加
  4. Feed-Forward Network: 各単語を独立に変換
  5. Layer Normalization: 学習を安定化

Self-Attention の仕組み

Self-Attention は、Transformer の核心的な技術です。

例えば、「銀行の口座にお金を預ける」という文を考えてみましょう。

「銀行」という単語の Self-Attention:

  • 「銀行」→「口座」: 関連性が高い(0.8)
  • 「銀行」→「お金」: 関連性が高い(0.7)
  • 「銀行」→「預ける」: 関連性が中程度(0.5)
  • 「銀行」→「の」: 関連性が低い(0.1)

このように、各単語が他のすべての単語とどれだけ関連しているかを計算し、重要な単語に「注目(Attention)」します。

Self-Attention の計算イメージ

実際の Transformer モデルは複雑ですが、Self-Attention の仕組みを理解するために、簡略化した計算の流れを見てみましょう。

計算の流れ(擬似コード):

# ステップ1: Query と各 Key の類似度を計算(内積)
query = [1, 0, 1]  # 「銀行」
keys = [[1,0,1], [0,1,1], [1,1,0]]  # 「銀行」「口座」「お金」

scores = [
  内積(query, keys[0]) = 2,  # 「銀行」との類似度
  内積(query, keys[1]) = 1,  # 「口座」との類似度
  内積(query, keys[2]) = 1   # 「お金」との類似度
]

# ステップ2: スケーリング(√次元数で割る)
scaled_scores = [2/√3, 1/√3, 1/√3]

# ステップ3: Softmax で確率分布に変換
attention_weights = softmax(scaled_scores)
# 例: [0.58, 0.21, 0.21]  # 「銀行」に最も注目

# ステップ4: 重み付き和を計算
output = attention_weights[0] * values[0] +
         attention_weights[1] * values[1] +
         attention_weights[2] * values[2]

このように、「銀行」という単語は、文中の他の単語(特に「口座」や「お金」)との関係性を考慮した新しい表現に変換されます。

Transformer の実用例

Transformer ベースのモデルは、様々な実用的なタスクで活用されています:

自然言語処理(NLP)

  • 機械翻訳: Google 翻訳、DeepL(Transformer ベース)
  • 文章生成: GPT-4、Claude(テキスト生成)
  • 要約: ニュース記事の自動要約
  • 質問応答: ChatGPT のような対話システム
  • 感情分析: レビューの肯定/否定判定

画像処理

  • 画像分類: Vision Transformer(ViT)
  • 物体検出: DETR(DEtection TRansformer)
  • 画像生成: Stable Diffusion(拡散モデル + Transformer)

音声処理

  • 音声認識: Whisper(OpenAI)
  • 音声合成: TTS(Text-to-Speech)モデル

マルチモーダル

  • 画像 + テキスト: CLIP、GPT-4V
  • 動画理解: VideoLLM

Transformer の種類

Transformer には、用途に応じていくつかの派生型があります:

1. Encoder-Only(BERT型)

  • 双方向に文脈を理解
  • 用途: 分類、固有表現抽出、質問応答
  • 例: BERT、RoBERTa

2. Decoder-Only(GPT型)

  • 左から右へ順次生成
  • 用途: テキスト生成、対話
  • 例: GPT-4、Claude、Llama

3. Encoder-Decoder(T5型)

  • 入力と出力の両方を扱う
  • 用途: 翻訳、要約
  • 例: T5、BART

Transformer の歴史と進化

モデル タイプ パラメータ数 特徴
2017 Transformer (Original) Encoder-Decoder 65M 最初のTransformerモデル。機械翻訳で革新的な性能
2018 BERT Encoder 340M 双方向の文脈理解。様々なNLPタスクで最高性能
2019 GPT-2 Decoder 1.5B 大規模テキスト生成の可能性を示す
2020 GPT-3 Decoder 175B Few-shot learningで様々なタスクをこなす
2022 ChatGPT Decoder 不明 対話型AIの普及に貢献
2023 GPT-4 Decoder 不明(推定1T+) マルチモーダル対応。人間レベルの性能
2023 Claude 3 Decoder 不明 長文処理(200K トークン)に優れる
2024 Claude 3.5 Sonnet Decoder 不明 コーディングと推論で最高性能
2024 Gemini 1.5 Pro Decoder 不明 超長文処理(2M トークン)

Transformer の制限と今後の展望

制限事項

  1. 計算コストが高い: Self-Attention は O(n²) の計算量
  2. コンテキストウィンドウの制限: 処理できるテキスト長に上限がある
  3. メモリ消費が大きい: 大規模モデルは膨大なメモリが必要

改善技術

技術 手法 メリット
Longformer スパースAttention O(n)の計算量で長文処理
Flash Attention メモリ最適化 高速化とメモリ削減
LoRA パラメータ効率的な学習 ファインチューニングのコスト削減
Mixture of Experts 専門家の混合 モデルサイズを拡大しつつ計算コスト削減

まとめ

Transformer は、2017年に登場して以来、AI の世界を根本から変えた革命的な技術です。GPT、BERT、Claude など、現代のほぼすべての最先端 AI モデルが Transformer をベースにしています。

Transformer を理解する上で重要なポイント:

  1. Self-Attention が核心: 文章内のすべての単語間の関係性を同時に計算できる
  2. 並列処理が可能: 従来のRNN/LSTMと違い、すべての単語を同時に処理できる
  3. スケーラビリティ: パラメータ数を増やすほど性能が向上する傾向がある
  4. 汎用性が高い: テキスト、画像、音声など様々なデータに適用可能
  5. 継続的に進化: Flash Attention、MoE など、より効率的な技術が開発され続けている

Transformer の影響:

  • NLP の民主化: 誰でも高品質な言語モデルを API で利用可能に
  • マルチモーダル AI: テキスト・画像・音声を統合的に扱えるように
  • AI の実用化加速: ChatGPT の登場で、AI が一般に広く普及

Transformer は単なる「技術」ではなく、AI の歴史における「パラダイムシフト」でした。2017年の論文タイトル「Attention Is All You Need(Attention こそがすべて)」が示す通り、Attention メカニズムだけで驚異的な性能を実現できることが証明され、現代の AI ブームの基盤となっています。