- HOME >
- Jamstack用語集 >
- Benchmark
Benchmark
ベンチマーク
Benchmark を分かりやすく
Benchmark(ベンチマーク)は、AI モデルの性能を客観的に測定し、比較するための標準的なテストです。
例え話をしましょう。あなたが新しいスマートフォンを買うとします。
ベンチマークなしの比較
- 店員「このスマホは速いです」
- あなた「どれくらい速いんですか?」
- 店員「とても速いです」
- あなた「他のスマホと比べてどうですか?」
- 店員「こっちの方が速いと思います」
主観的で、具体的な比較ができません。
ベンチマークありの比較
- 店員「AnTuTu ベンチマークで 850,000 点です」
- あなた「他のスマホは?」
- 店員「モデル A は 750,000 点、モデル B は 900,000 点です」
- あなた「明確ですね。では、ゲーム性能はどうですか?」
- 店員「3D Mark で 8,500 点です。モデル A は 7,200 点です」
客観的な数値で、明確に比較できます。
AI のベンチマークも同じです。「このモデルは賢い」ではなく、「MMLU で 85.2% の正答率」のように、具体的な数値で性能を測定します。
主要な AI ベンチマーク
AI モデルの能力を測るために、様々なベンチマークが開発されています。
MMLU(Massive Multitask Language Understanding)
57の科目にわたる1万5千問以上の多肢選択問題です。モデルの幅広い知識を測定します。
科目の例:
- 数学(算数、代数、微積分、統計)
- 科学(物理、化学、生物、コンピュータサイエンス)
- 人文(歴史、哲学、法律)
- 社会科学(経済学、心理学、社会学)
質問例:
「光合成に必要な物質はどれか?」
a) 酸素と二酸化炭素
b) 水と二酸化炭素
c) 窒素と水
d) 酸素と窒素
正解: b最新のモデルでは、人間の専門家レベル(約90%)に近づいています。
HumanEval
プログラミング能力を測るベンチマークです。164問のプログラミング課題があります。
問題例:
「与えられた整数のリストから、偶数のみを抽出して
新しいリストを返す関数を書いてください。」
入力: [1, 2, 3, 4, 5, 6]
期待される出力: [2, 4, 6]
AI が生成したコードをテストケースで検証GPT-4 は約 67%、Claude 3.5 Sonnet は 92% のパス率を達成しています。
GSM8K(Grade School Math 8K)
小学生レベルの算数の文章題8,500問です。推論能力を測定します。
問題例:
「太郎くんは1日に3個のリンゴを食べます。
1週間で何個のリンゴを食べるでしょうか?」
正解: 21個(3 × 7 = 21)単純な計算ではなく、文章から情報を抽出し、適切な計算式を立てる能力が問われます。
MATH
高校レベルの数学問題12,500問です。代数、幾何、確率など幅広い分野をカバーします。
問題例:
「xの二次方程式 x² - 5x + 6 = 0 を解け」
正解: x = 2, 3
複雑な数式の処理や、多段階の推論が必要GPQA(Graduate-Level Google-Proof Q&A)
専門家レベルの難問です。Google で検索しても簡単には答えが見つからない問題が集められています。
特徴:
- 大学院レベルの専門知識が必要
- 単純な暗記では解けない
- 深い理解と推論が求められるBigBench
Google が開発した、200以上の多様なタスクを含む巨大なベンチマークです。
タスクの例:
- 論理推論
- 常識推論
- 言語理解
- 創造的な文章生成
- コードの理解と生成ベンチマークの種類
ベンチマークは、測定する能力によって分類されます。
知識ベンチマーク
モデルがどれだけ多くの知識を持っているかを測定します。
- MMLU(幅広い学問分野)
- TruthfulQA(真実性)
- ARC(科学的推論)
推論ベンチマーク
複雑な問題を解く能力を測定します。
- GSM8K(算数の文章題)
- MATH(高度な数学)
- BBH(Big-Bench Hard、難しい推論タスク)
コーディングベンチマーク
プログラミング能力を測定します。
- HumanEval(Python コード生成)
- MBPP(Python 基礎問題)
- CodeContests(競技プログラミング)
マルチモーダルベンチマーク
画像、テキスト、音声などを組み合わせた能力を測定します。
- MMMU(画像+テキストの理解)
- VQA(画像に関する質問応答)
- COCO(画像キャプション生成)
安全性ベンチマーク
モデルの安全性を評価します。
- ToxiGen(有害な出力の検出)
- BOLD(バイアスの測定)
- BBQ(社会的バイアスの評価)
主要モデルのベンチマーク比較
最新の AI モデルのベンチマーク性能を比較してみましょう。
| モデル | MMLU | HumanEval | GSM8K | MATH | 特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
| GPT-4 | 86.4% | 67.0% | 92.0% | 52.9% | 汎用的に高性能 |
| GPT-4o | 88.7% | 90.2% | 95.8% | 76.6% | マルチモーダル対応 |
| Claude 3 Opus | 86.8% | 84.9% | 95.0% | 60.1% | 長文処理に優れる |
| Claude 3.5 Sonnet | 88.7% | 92.0% | 96.4% | 71.1% | コーディングに強い |
| Gemini 1.5 Pro | 85.9% | 71.9% | 91.7% | 58.5% | 超長文対応 |
| Llama 3 70B | 79.5% | 81.7% | 93.0% | 50.4% | オープンソース |
これらの数値は、モデルの強みと弱みを理解するのに役立ちます。
ベンチマークの限界
ベンチマークは有用ですが、いくつかの限界があります。
限界 1: 実際のユースケースとの乖離
ベンチマークの問題は、実際のアプリケーションでの使い方とは異なる場合があります。
ベンチマーク: 「この数式を解け」(明確な正解がある)
実際の利用: 「このビジネス課題をどう解決すべきか提案して」(正解が複数ある)ベンチマークで高得点でも、実際の業務で使いにくいことがあります。
限界 2: 暗記の可能性
モデルが訓練中にベンチマークのデータを見ている可能性があります。
問題:
ベンチマークの問題がインターネット上に公開されている
→ モデルの訓練データに含まれる可能性
→ 「理解」ではなく「暗記」で正解するこれを防ぐため、定期的に新しいベンチマークが開発されています。
限界 3: 測定されない能力
ベンチマークでは測れない重要な能力があります。
測定が難しい能力:
- 創造性
- 常識的な判断
- 倫理的な配慮
- ユーザーとの親和性
- 長期的な対話の一貫性限界 4: タスク特化の問題
特定のベンチマークに最適化しすぎると、汎用性が失われます。
例:
数学ベンチマークで高得点を取るために最適化
→ 数学は得意だが、他のタスクが苦手になるベンチマークの使い方
ベンチマークを適切に活用するためのガイドラインです。
1. 複数のベンチマークを見る
1つのベンチマークだけでなく、複数の指標を総合的に判断します。
モデル A: MMLU 90%、HumanEval 50%
モデル B: MMLU 85%、HumanEval 85%
用途に応じて選択:
- 幅広い知識が必要 → モデル A
- コーディング支援 → モデル B2. 自分のユースケースに近いベンチマークを重視
自分の用途に最も関連するベンチマークを優先します。
例: プログラミングアシスタントを作る
重視すべき: HumanEval、MBPP
参考程度: MMLU、GSM8K3. 実際に試してみる
ベンチマークの数値だけでなく、実際に使ってみて判断します。
評価項目:
- 応答の質(ベンチマークでは測れない)
- レスポンス時間
- コスト
- API の使いやすさ4. 最新の結果を確認
AI モデルは頻繁に更新されるため、最新のベンチマーク結果を確認します。
例:
2024年1月のモデル: MMLU 80%
2024年6月のモデル: MMLU 88%(大幅改善)ベンチマークの今後
AI の進化に伴い、ベンチマークも進化しています。
トレンド 1: より難しいベンチマーク
既存のベンチマークが簡単になりすぎたため、より難しい問題が求められています。
例:
GSM8K(小学生レベル) → MATH(高校レベル) → GPQA(大学院レベル)トレンド 2: 実世界のタスク
実際のユースケースに近いベンチマークが増えています。
例:
- SWE-bench(実際のソフトウェアバグ修正)
- WebArena(Webサイトの操作タスク)
- AgentBench(AI エージェントの性能)トレンド 3: マルチモーダル評価
テキストだけでなく、画像、音声、動画を組み合わせた評価です。
例:
「この画像に写っている料理のレシピを考えて、
必要な材料のリストを作成してください」トレンド 4: 長期的な対話
1回のやり取りではなく、長い対話を通じた評価です。
例:
数時間にわたる対話で:
- 一貫性を保てるか
- 過去の発言を覚えているか
- 文脈を正しく理解し続けるかまとめ
Benchmark は、AI モデルの性能を客観的に評価し、比較するための重要なツールです。しかし、ベンチマークの結果だけで判断せず、実際のユースケースに合わせて総合的に評価することが重要です。
重要なポイント
- 標準化された評価 - MMLU、HumanEval など、標準的なベンチマークで性能を測定
- 多様な能力 - 知識、推論、コーディング、マルチモーダルなど、様々な側面を評価
- 限界の理解 - 暗記、実用性との乖離など、ベンチマークの限界を認識
- 複数の指標 - 1つの指標だけでなく、複数のベンチマークを総合的に判断
- 進化 - AI の進化に伴い、より難しく、実用的なベンチマークが開発される
モデル選択の指針
- 用途に応じた適切なベンチマークを確認
- 複数のモデルを比較検討
- 実際に試用して体感的な品質も評価
- コストとパフォーマンスのバランスを考慮
Benchmark は完璧ではありませんが、モデル選択の客観的な判断材料として非常に有用です。ベンチマーク結果を参考にしながら、実際の用途に最適なモデルを選ぶことが、成功する AI アプリケーション開発の鍵となります。